電路・負荷保護(3)
三相モーターの正転、逆転、寸動
①正逆運転(逆転制動)
・モーターは通常の回転方向のほか逆転が必要になる機械もある(昇降装置、コンベアなど)そのため電源の2相を入替えて
回転方向を変える正逆運転制御が行われる。
・一時的に逆転条件を作り急速停止を行う方法を逆転制動 (プラッギング)という。

※3相のモーターは電源の2相を入替えると逆転する。
1)McF ON で正転
2)McR ON で逆転
※McFとMcRは同時にONしない様に電気、機械的にインターロックを取る必要がある。
また切替時はアークが消えるまでの時間を見込まなければならない。
※回転方向を切替える場合は大電流が流れ、電磁接触器に大きな負担が掛かるため通常よりも大きな容量の電磁接触器を使用する。
(各社の可逆形電磁接触器、可逆形電磁開閉器のカタログを参照して選定する事)
※逆転制動も同様な方法を用いるが、停止を検出する特殊な検出器が必要である。
②寸動(インチング)
昇降装置や機械の調整などで少しずつ回転させることを寸動(チョイまわし)という。
モーターのON OFFを頻繁に繰り返す場合は、その程度に応じて通常より大きな電磁接触器、電磁開閉器を選定する
必要がある。これは寸動運転では電磁接触器がモーターの起動電流を開閉するためである。
※三相モーターの回転速度(毎分の回転数:rpm)
同期速度 = 120×周波数/電動機の極数 :極数は2、4、6など
誘導電動機ではこれよりも回転数が低くなる。この割合を「すべり」と言い、%で表す。
実際の速度=(100-すべり%)×同期速度 :すべりは5.5~10%(小型ほど大きい)
※単相モーターでは、50Hzで1,500rpm 60Hzで1800rpmぐらいが普通である。
インバータ(200V回路)
近年モーターの速度を変える方法としてインバータが多用されている。インバータは交流を一旦直流に変換し、さらに交流に
変換し、出力する周波数や電圧を変えて、速度を制御する。(詳細は各メーカーの資料参照)
この交流は発電機で作られるような交流とは異なり高い周波数をベースとして擬似的に正弦波を作るため、出力波形には高周波が含まれる。交流側も出力に応じた電流が間歇的に流れるため波形が大きく歪み、出力側の高周波が電源側にも伝播する。
・モーターを過負荷から保護するため周波数に合わせて電圧も変える(VVVF)方式が用いられる。

VVVF:Variable Voltege Variable Frequency(可変電圧、可変周波数)
記号 | 名称 | 目的 | 備考 |
MCCB | 配線用遮断器 | 回路の過電流を保護する | INVに見合った定格のもの |
Mctt | 電磁接触器 | ・ブレーキ抵抗の焼損防止 ・INV(モーター)を無電圧にする | INVに見合った定格のもの (普通はMcct不要) |
AcL | 交流リアクトル | 入力の力率改善 | DcLがあれば不要 |
InpF | 入力側フィルタ | 電源側へのノイズ波及防止 | AcLがあれば不要 |
DcL | 直流リアクトル | 入力の力率改善(大容量機に多い) | 回生制動の場合に設置 |
BrakeR | ブレーキ抵抗 | モーターの回生制動用抵抗 | |
INV | インバータ | ||
OutF | 出力側フィルタ (専用品) | ・出力側へのノイズ防止 ・モーターの唸り軽減 | ・リングコアなども使用 ・使用しない場合もある |
※1.入力電流=モーター電流+インバータ損失 であるため入力電流はモーターの全負荷電流より大きい。
:したがってINVの入力kVAを調べてMCCB、Mctt、電線などを選定する必要がある。
:ACまたはDCリアクトルが付かない場合はkWの2倍ぐらいのkVAにする。
2.モーターがインバータ専用のものでない場合は、唸りが発生する事がある。静音型のINVもある。
3.インバータによって変えられる速度は0~200%程度であるが速度によってトルクが変化する。
4.過負荷はインバータで保護する。
5.MCCBの変わりにELBを用いる場合は、高周波対策品のELBを用いること。
6.ノイズ対策用接地線は電源側、負荷側の2回路に分割する。(E:接地)
①電源側:INV-AcF-E、 ②負荷側:INV―OutF-TB-モーター-E
(接地母線に太い電線で集合接地する場合もある)
7.INVの出力電圧は200V~230V
8.INVの二次側に可動鉄片型の電流計(交流電流計)を挿入すると電流計が焼損することがある。
◎インバータは高周波を発生する。
※インバータの入力側の相順と出力側の相順は無関係である(一度直流に変換したものを交流に再変換するため)
また、単相入力で三相モーターを駆動できるインバータもある。
※インバータを速度0のままで停止させておくことは推奨されない。
低圧進相用コンデンサ ( Static Condenser:略号SC)
・電動機などの誘導性の無効電力が大きいと損失が増加し電圧降下も大きくなるため、容量性の無効電力によって相殺する。
この容量性の無効電力を生み出すものがコンデンサ(進相用コンデンサ)で、負荷と並列に接続する。


※ 1.メンテナンスの際はコンデンサの残留電圧に注意すること(感電する)
2.低圧回路の進相コンデンサは開閉器を切った時、放電可能な様に個々の負荷に直結する。
3.負荷とコンデンサ容量の関係は内線規定で定められている。次項参照
4.コンデンサ内部には溜まった電荷を無電圧時に放電できるように放電抵抗を内蔵したものがある。
(放電抵抗は開路後3分以内に70Vまで電圧を下げる)
※参考:高圧で放電コイル式の場合は5秒以内、これ以外のものは5分以内に50V以下に下げる。
5.インバータ回路には必要が無い限り進相用コンデンサを設置しない事。
(高周波電流がコンデンサに流れ、破壊する危険がある。コンデンサが必要な場合は直列リアクトル経由で接続する)
6.蒸着金属形コンデンサは銘板またはケースに「SH」が表示されている。
(このタイプの場合は「保安装置」または「保安機構」内蔵と表示されているものを使用すること)
7.電流計を挿入する位置は①~③の様に各盤メーカーで異なる。
・安全性と何を計測するかによって異なる。
・②が一般的でモーターの負荷電流を正確に読む場合は③になる(インバータ回路は別)
8.単相、三相両用のコンデンサは図2の様に外部で接続を変えて使用する。
9.コンデンサは「過電圧」に弱い。
10.コンデンサを放電させるために端子を短絡しない事。危険であり、コンデンサが故障する場合もある。
モーター回路の進相コンデンサ容量と配線
・進相コンデンサの容量はモーター容量で決まる。下図にその関係を示す。

※ 1.コンデンサ容量の単相の値は内線規定付録(東京電力)、三相は内線規定資料3-3-3の値である。
2.コンデンサに流れる電流は次の式で計算によって求めた。
単相 I=V・ω・C 三相 I=(√3/3)V・ω・C ただし ω=2πf
3.電線サイズのうち、盤外の場合は()内の値を使用する(内線規定3335-1表)
4.コンデンサまでの配線サイズは内線規定及び公共建築工事標準仕様書(平成16年版)による。
5.電線がHIV、LMFCの場合もこのサイズを適用して良い(ただしモーター回路の電線サイズより太くする必要はない)
6.EM-IEの電線サイズは、公共建築工事標準仕様書(16年版)による。
7.※Aは、分岐点からコンデンサまでの長さが3m以内の場合を示す(公共建築工事標準仕様書(16年版)による)
負荷の性質
負荷には様々な性質があり、それを知らないままで設計するとトラブルが発生しやすい。
①突入電流
・負荷の器具によっては、スイッチを入れた瞬間に大きな電流が流れるものがある。

※上記の数値は目安を記入したもので、実際にはその機器のカタログで突入電流の値を確認し、配線用遮断器、
電磁開閉器などは、器具メーカーのカタログも確認して選定する。
※コンデンサ内蔵機器には直流安定化電源、UPS、CVCF、インバータ、サーボモータ電源など多くの電子機器があるが、ほとんどのもので突入電流が流れるものと考えてよい。ただし、突入電流を制限する回路を内蔵しているものもある。
UPS:Uninterruptive(Uninterruptible) Power Supply:無停電電源装置(交流:小容量)
CVCF:Constant Voltage Constant Frequency:定電圧定周波電源装置(大容量:交流)
※送風機などの起動時間の長い負荷に使用するサーマルには飽和リアクトル付などもある。
②過電圧の発生
・スイッチをON、OFFした場合は程度の差はあっても必ず過電圧が発生する。
特に、コイルの性質を持つものは、スイッチをOFFしたときに高い電圧を発生し、器具が絶縁破壊を起こす場合もある。
また、この過電圧はノイズとして伝播し電子機器の誤動作を招く。
・コンデンサや半導体を使用した機器は過電圧に弱いため、過電圧の抑制が必要である。
DCのリレーや電磁弁では、回路電圧の10倍程度の逆電圧が現れることがある。
※ノイズや過電圧に弱い機器がある場合はサージキラー(スパークキラー)やダイオードを用いて過電圧を抑制する。
③コンデンサの充放電電流
コンデンサの充電時には突入電流が流れる。また充電後のコンデンサの電圧は交流電源の波高値にほぼ等しくなる(約√2倍)
条件によってはコンデンサ端子が過熱焼損したり、開閉器の接点が溶着することがあるため注意が必要である。
また、充放電を行う目的のコンデンサは充放電の回数や頻度を考慮して、コンデンサを選定しなければならない。
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